大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和58年(ワ)11922号 判決

原告

甲野太郎

右訴訟代理人弁護士

杉田光義

小島敏明

須藤建夫

被告

乙田不動産株式会社

右代表者代表取締役

丙井一郎

右訴訟代理人弁護士

花岡隆治

向井孝次

沢田訓秀

山田忠男

齋藤晴太郎

被告

丁山明

被告

戊島花子

右二名訴訟代理人弁護士

近藤繁雄

主文

一  被告丁山明は、原告に対し、別紙物件目録記載の三及び四の建物から退去せよ。

二  被告丁山明、同戊島花子は、原告に対し、各自金三五六六万円とこれに対する昭和五八年一二月八日から支払ずみまで年五分の割合による金員及び昭和五八年一一月一日から被告丁山明が別紙物件目録記載の三と四の建物より退去するまで一か月金八八万九〇〇〇円の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、原告と被告丁山明、同戊島花子との間においては原告に生じた費用の二分の一を被告丁山明、同戊島花子の負担とし、その余は各自の負担とし、原告と被告乙田不動産株式会社との間においては全部原告の負担とする。

五  この判決は、第一、二項にかぎり、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告乙田不動産株式会社は、原告に対し、金二六六七万三〇〇〇円とこれに対する昭和五八年一一月二二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  主文第一項と同旨

3  被告丁山明、同戊島花子、同乙田不動産株式会社は、原告に対し、各自金三五六六万円とこれに対する昭和五八年一二月八日から支払ずみまで年五分の割合による金員及び昭和五八年一一月一日から被告丁山明と訴外株式会社○○プロジェクトが別紙物件目録記載の三と四の建物より退去するまで一か月金八八万九〇〇〇円の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は、被告らの連帯負担とする。

5  1ないし3項につき仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  被告乙田不動産株式会社の仲介契約違反

(一) 原告は、被告乙田不動産株式会社(以下、被告会社という。)に対し、昭和五一年七月初めころ、その区分所有する別紙物件目録記載の二の建物(以下、原告の専有部分という。)の賃貸の仲介業務を委任する契約をした。

(二) 被告会社は、原告に対し、昭和五一年七月一〇日訴外東都不動産株式会社を使用し被告丁山明が組織暴力団稲川会丁山組組長であることを秘して別紙物件目録記載二の(二)の建物(以下三〇一号室という)を斡旋仲介し、よつて原告は被告丁山との間でその賃貸借契約をした。その後被告丁山は右三〇一号室を丁山組事務所として使用を始めた。被告会社の右所為は、右仲介契約を受任し本件ビルを管理する不動産業者として尽すべき義務、及び本件ビルの同じ区分所有者として共同の利益に反する行為をしてはならない義務に違反するものである。

(三) 原告は、このため、その専有部分の他の部分の借り手を得られず、被告丁山が右三〇一号室を退去した昭和五五年五月三〇日まで別紙計算書No.Ⅰのとおり合計金二六六七万三〇〇〇円の賃料相当額の損害を受けた。

2  被告丁山明の本件ビルからの退去約束

(一) 原告は、被告丁山との間で、昭和五五年三月五日部屋明渡請求事件の控訴審である東京高等裁判所において、同被告は原告に対し同年四月三〇日まで右三〇一号室を明け渡すとの訴訟上の和解をし、他に、別紙物件目録記載の一の建物(以下本件ビルという)から退去し以後一切迷惑をかけないとの和解契約をした。

(二) 被告丁山は、昭和五五年五月二九日、右三〇一号室を明け渡し、直ちに被告戊島花子が区分所有する別紙物件目録記載の三の建物(以下五〇一号室という)に移転して占有使用し、同五六年九月一二日からは訴外癸本保夫が被告会社から賃借した同目録記載の四の建物(以下五〇三号室という)をも占有使用して本件ビルから退去しない。

3  被告丁山明、同戊島花子、被告会社の損害賠償責任

(一) 被告丁山は、右丁山組の暴力団事務所として、右のとおり右五〇一、五〇三号室を占有使用する他同年三月一日から九月一二日まで原告の区分所有する別紙物件目録記載二の(一)の建物(以下一〇一号室という)を被告丁山の実兄で元組長であつた訴外丁山一が監査役であり右丁山組の資金団体である訴外株式会社○○プロジェクトをして賃借使用せしめ、同年九月一二日からは右五〇三号室を被告会社より右丁山組幹部の訴外癸本保夫をして賃借せしめここに訴外株式会社○○プロジェクトを移転して占有使用させている。被告丁山の右各所為は原告との右退去約束に違反するものである。

(二) 被告戊島は、被告会社から丁山組事務所として利用させる目的で、昭和五五年三月一四日その区分所有していた右五〇一号室を買受け、同年五月二九日から被告丁山をして原告との間の右退去約束に違反することを知りながら占有使用を許している。被告戊島の右所為は、それ自体違法なものであり、また本件ビルの同じ区分所有者として共同の利益に反する行為をしてはならない義務に違反するものである。

(三) 被告会社は、故意又は重大な過失により昭和五五年三月一四日被告丁山の内妻である被告戊島に対し右五〇一号室を売却し、同年九月一二日右丁山組幹部の訴外癸本保夫に対し右五〇三号室を賃貸しいずれも丁山組事務所として占有使用せしめた。被告会社の右各所為は、同社が原告からその専有部分の賃貸の仲介業務を受任し本件ビルを管理する不動産業者として尽すべき義務に違反し、また本件ビルの同じ区分所有者として共同の利益に反する行為をしてはならない義務に違反するものである。

(四) 右五〇一、五〇三号室は、以後丁山組により暴力団事務所として使用された。このため原告はその専有部分の借り手を得られず、昭和五五年六月一日から同五八年一〇月三一日まで別紙計算書No.Ⅱ、Ⅲのとおり合計金三五五六万円の賃料相当額の損害を受け、同五八年一一月一日から被告丁山及び訴外株式会社○○プロジェクトが右五〇一、五〇三号室より退去するまで一か月金八八万九〇〇〇円の賃料相当額の損害を受けている。

よつて、原告は、被告会社に対し右1の仲介契約違反にもとづく損害賠償金二六六七万三〇〇〇円とこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五八年一一月二二日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払、被告丁山に対し、右2の本件ビルからの退去約束にもとづく右五〇一及び五〇三号室からの退去、被告丁山、同戊島、被告会社に対し右3の損害賠償責任にもとづき各自昭和五五年六月一日から同五八年一〇月三一日までの損害賠償金三六六七万円とこれに対する訴状送達後の同五八年一二月八日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金及び同五八年一一月一日から被告丁山と訴外株式会社○○プロジェクトが右退去するまで一か月金八八万九〇〇〇円の割合による遅延損害金の各支払をそれぞれ求める。

二  被告らの認否

1  請求原因1事実(被告会社の仲介契約違反)につき被告会社は右(一)の原告がその専有部分を区分所有することを認め、その余を否認し、右(二)の本件ビルを管理し共に本件ビルの区分所有者であることを認め、その余を否認し、右(三)は知らない。右仲介契約をしたことはない。

2  請求原因2事実(被告丁山の退去約束違反)につき右(一)の被告丁山が原告に対し右三〇一号室を明け渡すとの訴訟上の和解をしたことを認め、その余を否認し、右(二)の被告丁山が同戊島の区分所有する右五〇一号室を占有使用していることを認め、その余を否認する。本件ビルから退去するとの和解契約をしたことはない。

3  請求原因3事実(被告らの損害賠償責任)につき被告丁山は右(一)の右五〇一号室を昭和五五年五月二九日から占有使用していることを認め、その余を否認し、被告戊島は、右(二)の右五〇一号室を買受けて被告丁山をして占有使用せしめていること、原告と共に本件ビルの区分所有者であることを認め、その余を否認し、被告会社は右(三)の右五〇一号室を被告戊島に売却し、右五〇三号室を訴外癸本保夫に賃貸したこと、本件ビルを管理し原告と共に本件ビルの区分所有者であることを認め、その余の事実を否認し、被告らはいずれも右(四)の事実を否認する。

第三  証拠〈省略〉

理由

一請求原因1事実(被告会社の仲介契約違反)を判断する。

1  原告と被告会社間において右(一)の原告がその専有部分を区分所有すること、右(二)の被告会社が本件ビルを管理し原告と共に本件ビルの区分所有者であることは争いがない。

2  右(一)事実の原告と被告会社間における原告の専有部分賃貸の仲介業務を委任する契約の成立については一応これに副う〈証拠〉、原告の供述があるところ、他方〈証拠〉、被告丁山の供述によると訴外東都不動産株式会社の取締役兼宅地建物取引主任者である佐藤英訓は、昭和五一年七月ころ被告会社取締役松本聰の紹介により原告に対しその専有部分賃貸の仲介業務の受任を申し込み、数か月間に亘り本件ビル三階の道路側壁面に訴外東都不動産株式会社名義の賃借人募集の看板をとりつけ、被告丁山から右三〇一号室の賃借仲介を受任し、同月一〇日原告と被告丁山間に右室の賃貸借契約を成立せしめて立会人となり原告から仲介手数料を受領し、次いで同月二三日原告と訴外学研ホームスタディセンター間に原告の専有部分のうち四階部分の賃貸借契約を成立せしめその立会人となり仲介手数料を受領し、他にその余の専有部分の賃貸借契約の成立がなかつたことが認められ、むしろ原告と訴外東都不動産株式会社間に右仲介業務を委任する契約が成立したとうかがわれることに照らすと〈証拠〉、原告の供述は採用できるものではなく、他に前示契約の成立を認めるに足りる証拠はない。

3  そうすると右(二)、(三)の各事実を判断するまでもなく、被告会社の仲介契約違反による損害賠償請求は理由がない。

二請求原因2事実(被告丁山の本件ビル退去の約束)を判断する。

1  原告と被告丁山間において右(一)の右三〇一号室を明け渡すとの訴訟上の和解をしたこと、右(二)の被告丁山が同戊島の区分所有する右五〇一号室を占有使用していることは争いがない。

2  〈証拠〉、原告の供述によると次の事実を認めることができる。

(一)  被告丁山は、原告から、昭和五一年七月六日右三〇一号室を真実は稲川会丁山組事務所として使用することを秘しインテリア設計事務所として使用すると称してこれを賃借し、本件ビル三階の道路側に「丁山事務所」の袖看板をとりつけた後、いわゆる「事務所開き」を行つて組員を入居させ暴力団事務所としての利用を始め、一時期道路窓ガラス一杯に金文字で「稲川会丁山組事務所」と表示した。これに対し原告は、前示松本聰、同佐藤英訓らと被告丁山の本件ビルより退去の方策を協議しながら、他方、その余の専有部分につき賃貸入居の宣伝・募集に努め相応の引き合いがあつたが、いずれも右丁山組の入居の事実を知り、また組員からの威圧を受けると成約まで至らず、そして昭和五一年七月二三日原告の専有部分の四階部分に賃借入居した前示訴外学研ホームスタディセンターも一年九か月後に本件ビルは環境が悪いとして右契約を解消して退去した。

(二)  原告は、右の状況下において被告丁山に対し、昭和五三年三月一〇日東京地方裁判所に対し右三〇一号室明渡請求事件を提訴し(昭和五三年(ワ)第一一八四三号事件)、右訴訟においては被告丁山が右三〇一号室を暴力団事務所として使用することは原告の専有部分の賃貸を困難にしこれをもつて被告丁山の右室の賃貸借契約上の用法義務に違反することを争点とし、同五四年一一月三〇日同裁判所は右義務違反を肯定し原告の右請求を認容する判決をした。そこで被告丁山は東京高等裁判所に控訴し(昭和五四年(ネ)第二八三九号事件)、昭和五五年三月五日同裁判所の和解期日において被告丁山は代理人弁護士二名と原告はその妻と共に出頭し、右原、被告間において、被告丁山は原告に対し同年四月三〇日まで右三〇一号室を明け渡し、原告は被告丁山に対し和解金(保証金の返還を含む)として金四〇〇万円を、同年三月一七日限り内金一七〇万円を、明渡完了後直ちに残金二三〇万円を支払うことを約し、その旨の条項の記載された和解調書が作成された(甲第一一号証)。この際原告は、担当裁判官に対し、被告丁山が本件ビルから退去するとの条項の和解調書への記載を求めたが、被告丁山側はこれに反対したため記載するに至らなかつたところ、右原、被告双方が立会した和解成立時の席上担当裁判官において、被告丁山に対し、特に今後原告に迷惑をかけないようにせよとの発言があり、被告丁山はこれを受諾し、原告もこれをもつて了承した。この結果原告は、和解成立のため和解金四〇〇万円を支払うとの他に被告丁山に対して有する差入れずみの保証金の約定償却分金一二〇万円、未払家賃、管理費合計金一五〇万円、内装の解体費用金三〇万円、補修及び修繕費用金二〇〇万円総合計金五〇〇万円の各請求権を放棄するとの譲歩をした。

(三)  被告丁山は、原告に対し、昭和五五年五月二九日本件ビル前道路上に大型トラックを駐車させて丁山組事務所が本件ビルから退去する如くみせ、右和解金残金二三〇万円を受領し右三〇一号室から荷物を運び出すや直ちに被告戊島が同年三月一四日被告会社から買受けて区分所有した右五〇一号室に右物品を運び入れて組員と共にここに移転し、同年九月ころからは丁山組組員癸本保夫が被告会社から賃借した右五〇三号室にも組員を入居させ、本件ビル一階入口に「稲川会丁山組事務所」の行燈型の看板を置き、他に三年間に亘り本件ビル五階道路側階段手摺りに同じ文言の看板をとりつけ、いずれも従前と同様に暴力団事務所として利用し本件ビルから退去していない。

(四)  被告丁山は、右和解時には丁山組事務所の転居先を本件ビル以外の近くの場所を考えてこれに応じた旨供述する。そして同被告の供述のうち右(一)ないし(三)の認定に反する部分は採用の限りでない。

3 以上の認定によると右和解調書上は、被告丁山は原告に対し右三〇一号室を明け渡すことを記載したにとどまり、本件ビルから退去することまでを記載していないことは明らかであるところ、このことから直ちに右和解調書の記載以外の合意の成立を否定する理由にはならない。原告においては東京地方裁判所の一審以来被告丁山とその統率下にある組員が本件ビルを丁山組事務所として使用することをもつて原告の専有部分の賃貸の実現を阻むとしこの解決のため被告丁山組事務所の本件ビルからの全面的退去を目指し、東京高等裁判所の控訴審に至つては被告丁山においてもこれを十分に認識していたはずである。それ故原告は、東京高等裁判所の和解手続上金銭支払の権利義務において大幅に譲歩し、被告丁山は、和解成立時に担当裁判官からの原告に今後迷惑をかけないようにとの発言を受諾し本件ビル以外の転居先を考えていたものであり、さらには右三〇一号室の明渡時あたかも本件ビルから退去する如く装い原告を欺いて和解金残金を受領し右五〇一号室へ転居せざるをえなかつたものである。そうすると被告丁山は、原告に対し、右訴訟事件の対象につき和解調書上昭和五五年四月三〇日かぎり右三〇一号室を明け渡すとの訴訟上の和解を成立せしめると共にこれに加えて右原、被告間の争い解決のため、被告丁山は、原告に対し、右同日かぎり本件ビルから退去するとの私法上の和解契約を口頭でなしたものというべきである。

従つて被告丁山は、右退去約束により昭和五五年四月三〇日かぎり本件ビルから退去すべき義務を負うところ、原告において被告丁山が現実に使用占有する右五〇一、五〇三号室の退去請求にとどめたものと解され、これは理由がある。

三請求原因3事実(被告らの損害賠償責任)を判断する。

1 右(一)のうち原告と被告丁山間において同被告が右五〇一号室を昭和五五年五月二九日から占有使用していることは争いがなく、そして被告丁山が右五〇三号室を同年九月ころから占有使用し両室ともに丁山組事務所として利用していることは前示二の2の(三)の認定のとおりであり、これが原告との前示退去約束に反することは明らかである。

そして被告丁山の供述、弁論の全趣旨によるとテレビゲーム機器の販売を業とし同被告の実兄丁山一が監査役である訴外株式会社○○プロジェクト(代表取締役廣田裕彦)は、昭和五六年九月一二日原告から賃借していた右一〇一号室を明渡した後丁山組組員癸本保夫の賃借した右五〇三号室を一時使用し、その後退去したことを認めうるところ、これをもつて直ちに被告丁山において前示退去約束に違反したものといえるものではなく、またこれ以前に右一〇一号室の賃借使用につき被告丁山が何らかの関与をしたと認めるに足りる証拠はない。

2  右(二)のうち原告と被告戊島間において同被告が右五〇一号室を被告会社から買受けて被告丁山をして占有使用せしめていること、本件ビルを管理し原告と共に本件ビルの区分所有者であることは争いがない。

前掲〈証拠〉によると被告戊島は、被告丁山の二〇年来の内妻であるところ、被告丁山が昭和五五年三月五日前示退去約束をしたことから、両名において、被告会社の区分所有していた右五〇一号室に転居することを画策し先に同室に入居していたマッサージ師高橋タマエを退去させた後、被告丁山において購入代金を出捐し、被告戊島において被告会社に対し、同月一四日被告丁山の関係者であることをことさら秘してこれを買入れ、同月二九日被告丁山が右三〇一号室へ移転したことを認めることができ、これに反する証拠はない。

以上の被告戊島の所為は、原告を欺く方法で被告丁山に対して有する本件ビルの退去請求権を侵害することに協力した不法行為にあたり、その責任を免れえない。

3  右(三)のうち、被告会社と原告間において、同被告が右五〇一号室を被告戊島に売却し、右五〇三号室を訴外癸本保夫に賃貸したこと、本件ビルを管理し原告と共に本件ビルの区分所有者であることは争いがない。

そして被告会社が被告丁山の内妻である被告戊島に対し右五〇一号室を売却するにつき、被告戊島において被告丁山の関係者であることをことさら秘したことは前示三の2の認定のとおりであり、また被告会社が丁山組組員癸本保夫に対し右五〇三号室を賃貸した際、右癸本においても右同様の処置をとつたことは被告丁山の供述、弁論の全趣旨により容易に推認され、他に被告会社が被告戊島、右癸本を被告丁山の関係者であることを知り又はこれを知らないことに不注意があつたと認めるに足りる証拠はない。そうすると被告会社は本件ビルの管理者としてまたはその区分所有者としてのいずれの立場においても故意又は過失を欠くのでその責任追及は止むべきであり、さらに被告会社が原告の専有部分の賃貸仲介業務を受任したと認め難いことは前示一の2の認定のとおりであるから、受任者としての責任追及はそもそも問題とする余地はない。

4  右(四)のうち被告丁山と同戊島につき前示認定のとおり昭和五五年五月二九日から右五〇一、五〇三号室を丁山組事務所として占有使用することにより、原告はその専有部分の借り手を得られず、ために〈証拠〉によると原告は同五五年六月一日から同五八年一〇月三一日まで別紙計算書No.Ⅱ、Ⅲのとおりの賃料額と計算による合計金三五五六万円の賃料相当額の損害及び同五八年一一月一日から被告丁山が右五〇一、五〇三号室から退去する限度にとどめても一か月金八八万九〇〇〇円の割合による賃料相当の損害を受けるものとみることをもつて相当とする。

5  そうすると被告丁山、同戊島に対する右損害賠償請求は理由があるが、被告会社に対する右損害賠償請求は理由がない。

四結論

よつて、本訴各請求のうち被告丁山に対する右五〇一、五〇三号室の退去請求、被告丁山、同戊島に対する各損害賠償請求を認容し、被告会社に対する請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官大淵武男)

別紙物件目録〈省略〉

別紙(賃料相当損害金)計算表〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例